バレエ公演レポート

NEW 2025.3.9 更新

~感動の舞台~

公演REPORT


 

イノック・アーデン

東京バレエ団 出演

 

2025.3.7(金)

@新国立劇場 小ホール 

 

 

 

  イギリスヴィクトリア朝時代を代表する偉大な詩人、アルフレッド・テニスンが1864年に書いた物語詩『イノック・アーデン』を、前代未聞のスタイルで舞台化した作品が上演スタート。

バレエウィークはいち早く、初演を観に行ってきました!

 

舞台は英文学作品の舞台を多く手掛けてきたウィル・タケットの演出にて、俳優、バレエダンサー、そしてピアニストの共演という今までにない新しい形で進んでいきます。演劇でも朗読でもなく、バレエでもピアノリサイタルでもない、でもそのすべての良さを同時に味わえるような贅沢な舞台でした。

 

ストーリーはひたすら愛する人を待ち続けた妻と、その期待に応えるべく努力を重ねた男、そして夫を待つ女性を深く愛しているが故に友情と愛情の狭間で揺れ動く幼なじみの男。3人の登場人物がそれぞれ違った愛の形を描くという哀しくもロマンチックな「愛」の物語です。愛とはどうあるべきなのか、愛とは何なのかを深く考えさせられるような、そんな機会を与えてくれた貴重な時間となりました。

 

 舞台は遠くから聞こえてくるような波の音、そして船の帆をイメージしたようなユニークなホリゾントに映し出される海の映像から始まりました。ホールは新国立劇場小ホールで、舞台と客席の距離が近いこともあり、始まりの真っ暗な暗転から一気にストーリーに引き込まれます。

 

 ストーリーはピアニスト櫻澤弘子さんのピアノ生演奏を主軸に進んでいきます。曲はリヒャルト・シュトラウスが「イノック・アーデン」のために作曲したものを中心とした音楽です。その旋律の上に俳優田代万里生さん、中嶋朋子さんのお二人が語り合う詞が被さり、それだけでもこの物語詩の情景が目に浮かぶような音と空間でした。その上、さらにストーリーの登場人物3名がバレエダンサーにより表現されていきます。

 

二人の男性の間を揺れ動くアニー役を演じるのは東京バレエ団プリンシパルの秋山 瑛さん、船乗りの息子であり、アニーの夫イノック・アーデンを演じるのは同バレエ団の南江祐生さん、粉屋の息子のフィリップ役には同バレエ団の生方隆之介さんという豪華バレエダンサーが豊かな身体表現により台詞と音楽を視覚化していきます。

 

華やかな舞台美術とオーケストラに囲まれながら舞台転換していくような通常のクラシックバレエの舞台とは違い、1台のピアノとホリゾントに映し出される風景、そして椅子というシンプルな舞台構成であるのに、絶えず聞こえる心揺さぶられるピアノ演奏と力強い台詞、三人の豊かな身体表現は、ストーリーだけでなく登場人物の心の奥底深くまでを映し出すような舞台となっていたのが印象的でした。そのシンプルな舞台だからこそ、演奏、台詞、そしてダンスのそれぞれが浮かび上がってくるような、まさにそんな演出がウィル・タケットさんの創り出す素晴らしい空間なのかもしれません。

 

 

三人の踊りは、無邪気で可愛らしい子供時代の雰囲気を感じられるシーンから始まりました。楽しげなステップを踏む三人の踊りは観客の心をも楽しくするようなものであり、そして続く青年時代には、音楽と連動したしなやかな動きやパドゥドゥのテクニック、リフトなども楽しめる振付となっていました。振り付けはクラシックバレエの動きだけではなく、コンテンポラリーダンスの要素なども入ることにより、心の葛藤や苦しみをより大きく表したりと、ストーリーに合わせて様々なダンスシーンを幅広く堪能することができました。

 

 

テニスンの類まれな美しい情景描写や心の中の苦悩、葛藤が音に合わせた台詞となって、ストーリーは進んでいきます。

いつものクラシックバレエとは違い、音と台詞にフォーカスした動きのない静寂な場面もあります。ですがそのような時のダンサーの表情や立ち姿からも、登場人物の叫び声が聞こえるかのようなパワーを感じることができました。動いている踊りだけが身体表現ではなく、ダンサーを通じて登場人物の喜び、苦悩、葛藤、優しさ、そして愛の形や生と死の形が伝わってくるような、そのような素晴らしい瞬間を感じ、感動することができた舞台でした。

 

 

出演者6名の揃った最後のレベランスでは、観客の皆様のスタンディングオベーションと割れるような拍手に包まれ、鳴りやまない拍手に何度も応じてくださった出演者の皆様の温かいお心遣いとともに幕を閉じました。

 

公演は16日まで続いていますので、是非舞台でこの感動を味わいに、劇場に足をお運びください!

 

『イノック・アーデン』公演情報についてはこちら☞

🌟開幕記念 Balletweek Magazine Interview

  東京バレエ団 秋山さんインタビュー記事はこちら☞

 

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