Balletweek Magazine

 

~公演インタビュー~

舞台『イノック・アーデン』

Balletweek Magazine 取材

NEW 2025.2.28  更新

 <東京バレエ団プリンシパル 秋山 瑛さんインタビュー

俳優とダンサー、そしてピアノ生演奏の3つが織りなす舞台

舞台『イノック・アーデン 

 

 

イギリスの桂冠詩人アルフレッド・テニスンが1864年に書いた

物語詩『イノック・アーデン』。

英文学作品の舞台を多く手掛けるウィル・タケットの演出により、

俳優、バレエダンサー、ピアニストで織りなす前代未聞の珠玉の舞台が完成。

 

ひたすら愛する人を待ち続けた妻と、その期待に応えるべく努力を重ねた男、

そして夫を待つ女性を深く愛しているが故に

友情と愛情の狭間で揺れ動く幼なじみの男。

3人の登場人物が描く、不変かつ普遍である「愛」をテーマにした

哀しくもロマンチックな物語です。

 

舞台を観る前に、完成までの舞台裏を是非このインタビューで

チェックしてみてください!!


◆プロフィール◆ 

秋山 瑛

(Akira Akiyama)

 

7歳よりバレエを始める。

東京バレエ学校、リスボン国立コンセルヴァトワー ルで学んだ後、イタリアのラ・カンパーニャ・バレット・クラシコで活躍。

2013年、ベルリンで のタンツオリンプで銅賞を受賞。

2016年、東京バレエ団に入団、22年にプリンシパルに昇進。

2024年、芸術選奨文部科学大臣賞新人賞を受賞。

 

  主なレパートリー:

『ドン・キホーテ』のキトリ、『海賊』のメドーラ、『ジゼル』のジゼル、『ラ・バヤデール』のニキヤ、ベジャール版『ロミオとジュリエット』のパ・ド・ドゥ、ノイマイヤー『スプリング・アンド・ フォール』 など

 

リヒャルト・シュトラウスの音楽と俳優の台詞、そしてそれにバレエを加えた今回の新しい舞台。想像を超えた3パートが交じり合う空間とは・・・

英文学の巨匠テニスンの物語詩『イノック・アーデン』がウィル・タケット演出・振付により新たな形で現代に甦るこの作品の制作秘話を、東京バレエ団のプリンシパル秋山瑛さんにいち早くお伺いしてきました!

 

★バレエウィーク(以下BW)★ シュトラウスの音楽と朗読のコラボレーションは今までもありましたが、今回のようなバレエを加えた作品は見たことがありませんね。とても新鮮な試みで想像しがたいのですが、今回の作品はどのようなものなのでしょうか?

 

★秋山★ お稽古が現在始まったばかりですので、形になっている部分だけお話する感じにはなるのですが、お稽古はピアニストの演奏とともに進めていきます。台本と楽譜が一緒になったものがあり、楽譜を見てタイミングを確認しつつ、俳優さんの田代さん、中嶋さんお2人の台詞によって物語が紡がれていきます

 

その場で音楽と台詞、バレエの動きのタイミングを試しながらウィルさんが完成させていくのです。

パズルのピースを一つ一つ組み合わせながら舞台の進行が決定していく感じでとてもおもしろいです。

ウィルさんは台詞の意味はもちろん、日本語の響きも音楽の一部ととらえていらっしゃると思います。

 

中嶋さんも田代さんも初めてご一緒させていただきますが、お2人で何役も担いながら演劇的な言葉があったり、情景描写のナレーションがあったりと、ストーリーはすべてこのお2人が進めていきます。

ダンサーの3人は南江さんがイノック、生方さんがフィリップ、私がアニーと配役が固定されていますが、お2人はその時々で本当に様々な役回りをしています。ダンサー3人の心の中を語ったりもしますし、一緒に動いたり歩き回ったり、舞台転換に加わったりも・・・!たくさんの役割を担っていらっしゃるので、お2人はきっととても大変だろうなと思いますが、音楽と共にお2人の台詞によって場面や心情が迫ってくる感覚で、私の中の新たな表現を沢山引き出していただいています。

 

 

★BW★ 音楽だけではなく俳優さんが入ってのバレエは普段のバレエと大きく違うと思いますが、バレエが入ることのおもしろさ、バレエの役割は何だと思いますか?

 

★秋山★ バレエにより、視覚的な情報が入るところでしょうか。

お稽古の前に朗読とシュトラウスの音楽のみの既存の朗読劇のバージョンを聴かせていただきました。聴くことで耳から感じる音楽や声の感情によって創造力を膨らませることができて、作品に没入できましたが、今回は踊りが入ることでそれとはまた違った意味で作品を感じることができると思います。

 

音楽と台詞と共に実際にそこにいる人たちが踊ることによって台詞が目の前で立ち上がるという感じといいますか、私は小説の中にパッと入ってくる挿絵を見るのが大好きなのですが、その挿絵のようにイメージの補完になるというかその場面への理解だったり感情の共感を助けてくれるような感じでしょうか。説明するのは難しいのですが、視覚や空気感から感じられる要素が踊りによって追加されているような感じです。

 

でも、私たちもすべての台詞を踊る訳ではないのです。観ている方からすると、踊りがない部分は耳からの情報のみで想像できる余地もあり、一方踊りの部分からは視覚的にロマンティックさを感じられたり、映画のように台詞と映像と音楽を一緒に感じられるところもあったりと、この舞台ではいろいろな要素から構成されているところがおもしろい点だと思います。

 

音、動き、言葉、映像と、様々な情報が行き交っていて、踊りが止まっている時に台詞があったり、台詞の間を使って踊ったりという演出もあります。音楽と言葉と踊りが絡まり合っているところが素晴らしいですが、それは何通りもの選択肢から最善に向かって組み合わせる緻密な作業だと思うので、演出されるウィルさんの頭の中はどうなっているんだろう???と思いますね。一つ一つにウィルさんのこだわりを感じます。

 

 

 ★BW★ このテニスンの愛の物語詩はもともとバレエ作品ではありませんが、アニーの役作りはどのようにしているのでしょうか?

 

★秋山★ 3人で、「台本読んだ?どう思った?」と話をまずしました。つらいシーンが多いよねと。

 

初めは2人の男性に囲まれたアニーがどのような人物なのか理解しづらい部分がありました。今の時代と、感覚は違うので。

 

ウィルさんが稽古中に人物について話してくれる機会があって、アニーの向き合う男性2人について考える上で大きな助けになりました。

フィリップとイノックは全然違うタイプの男性なのです。

衣裳イメージも見せていただきましたが、衣裳からも2人の違いが分かるような衣裳でした。

生まれ育った環境や信仰心(神に対する付き合い方)もだいぶ対照的な2人なのです。

 

アニーはフィリップのような地に足がついた男性がいいという気持ちもあるけれど、なぜかイノックに惹かれてしまうのです。なぜかその魅力に惹きつけられてしまう人というのは誰の心の中にもあると思います。イノックにはかなわないという思いをフィリップも理解している。フィリップは、本当に愛していたら妻と子供を置いて海に行かないのでは?一緒にいてあげるのが愛ではないのか?というような人。イノックは家族のために仕事が必要だし、愛しているからこそ海に出るという人。考え方も対照的で、愛の形も違うのではないかというお話でした。

 

 ウィルさんはそれを『イノックは海のようで、フィリップは陸地のよう』という例で考えを共有してくださって、それまでの私の中の2人へのイメージが少しずつ形になるきっかけになりました。

役作りはこうしてください、というのではなく共有しながら一緒に創っている感じで、ウィルさんの導きによりいろいろと考えながら進めています。

 

 

 ★BW★ 十年待った前と後でアニーは結婚相手が変わっていますが、その人格・気持ちの表現の違いをどのように表現していくのですか?その辺りがお客様もとても興味深い気がします。

 

★秋山★ 昨日までに出来上がった部分がまだ10年経つ前の前半部分なので、どうなっていくのでしょう。

私たちも今後の展開を知りませんし、どんな風にアニーが変わっていくのかもこれからのお稽古次第だと思います。

ぜひ舞台でご覧になっていただきたいと思います。

 

 ★BW★ 踊りのスタイルはコンテンポラリーダンスっぽいものか、トゥシューズ(ポワント)を履いたクラシックバレエの形の動きなのか、パ・ド・ドゥなどもあるのか、というところはどうですか?

 

★秋山★ 現在はポワントでリハーサルを進めています。ですが動きはコンテンポラリーダンスのようにフロアを使う動きもあり、パ・ド・ドゥのように男性と組んで回ったりする部分もあります。

振付も本当に面白いのです。

ウィルさんが振付をしてくださっている中で、彼の頭の中の動きの流れを説明してくださって、どんな感じにできそう?という風に一緒に考えていく部分もあるのです。

 

クラシックバレエの要素もありつつ、コンテンポラリーダンスのような自由な身体の動きを要求される部分もあります。いくつもの身体表現がミックスされている感じです。

 

 

★BW★ 最後に、この舞台を通してお客様に是非観てほしいポイントなどはどのようなところですか?

 

★秋山★ あらすじを読むと悲しいお話だなと感じてしまうかもしれませんがこの物語を通して普段生きている中でしなければいけない選択だったり、大切なものの守り方だったり、愛するとはどういうことなんだろうと考えたり、心の中の感情や自分の思考にアプローチできる作品になっていると思います。

 

作品自体が新たな試みなので、私自身完成がとても楽しみですし、多くの方に観ていただきたいと思います。

 

 

★BW★ 作品やリハーサルについて、大変詳しく教えていただき、ありがとうございました。このインタビューにより、舞台の開幕がより待ち遠しくなってきました‼

 

◆舞台『イノック・アーデン』 の公式ページはこちら 

※記事の文章及び写真を無断で使用することを禁じます。

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                                  ◆衣裳提供:チャコット株式会社 キャミソールレオタード

お問い合わせ:0120-155-653

                                                                                                    ◆ヘアメイク 石川ユウキ (Three PEACE)

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◆◆◆公演情報◆◆◆

ウィル・タケットの演出、田代万里生、中嶋朋子、そして東京バレエ団の3人のダンサーで贈る、言葉とダンスで紡ぐ、「愛」の物語

舞台『イノック・アーデン』

 

日程 2025年3月7日(金)~16日(日)

会場 新国立劇場 小劇場【公演詳細はこちら☞】

 

イギリスの桂冠詩人(英国ロイヤルが与える最高の称号)としてワーズワースやトライデンなどと並び称されるアルフレッド・テニスンが1864年に書いた物語詩『イノック・アーデン』。

ひたすら愛する人を待ち続けた妻と、その期待に応えるべく努力を重ねた男、そして夫を待つ女性を深く愛しているが故に友情と愛情の狭間で揺れ動く幼なじみの男。3人の登場人物が描く、不変かつ普遍である「愛」をテーマにした哀しくもロマンチックな物語です。

 

この作品を夏目漱石は「ここに人間がある。活きた人間がある。感覚のある情緒のある人間がある」と絶賛。リヒャルト・シュトラウスはこの詩の音楽的韻律美にインスパイアされ、作曲。今回はそのリヒャルト・シュトラウスの紡いだオリジナル楽曲に、シュトラウスの別楽曲を加え、俳優、バレエダンサー、ピアニストで織りなす珠玉の舞台です。

 

 【STORY】

舞台は、イギリスの海辺のある村。

そこに、船乗りの息子で親を亡くしたイノック・アーデン、粉屋の息子のフィリップ・レイ、美しい少女のアニー・リーという三人の子供がいた。三人はいつも海辺の砂浜で仲良く遊んだ。どんな時も三人は一緒だった。二人の男の子はそれぞれ夢を持ち、一人の女の子は花嫁になることを夢見てた。

 

いつの頃からだろうか、二人の男の子(イノック・アーデン、フィリップ・レイ)はその女の子(アニー・リー)に恋心を抱くようになっていた。彼等もそんな年頃を迎えていた。3人の子供たちは成長し、恋を知る年頃となる。思いをはっきり伝えるイノックと引っ込み思案のフィリップ、二人の恋の勝負はイノックが勝り、アニーと結婚することとなった。フィリップは計り知れない失恋の苦しみを胸に秘めるのであった。イノックとアニーは二人の子供にも恵まれ、慎ましやかな平和な家庭を築いていた。家族を思うイノックはますます船乗りとして仕事に精を出し、財をなしていった。

 

ところが、ある日運悪く大怪我を負ってしまう。長い療養を経て復帰したものの、なかなか仕事を得ることができず、家計も苦しくなる一方。そこへ東方へ向かう商船の水夫長の仕事が舞い込んだ。家族のためにもっと働きたい、男としてひとはたあげたい、妻と子供に裕福な生活を与えたいと船に乗り、海にでるのであった。アニーはイノックの帰りを心待ちにしていた。心から感謝の気持ちでいっぱいで毎日が幸せに満ちていた。

 

しかし一年が経ち、二年が経ち、全く音信の途絶えてしまったイノックの消息は彼女の不安を呼び、安否を気遣う毎日、次第に心も身体も弱ってしまった。彼女を心配する幼馴染みのフィリップ・レイは精一杯の愛で包み、彼女を慰め続けた。次第に子供たちはフィリップになつき、フィリップもアニーへの想いが再燃し募ってゆく。しかし、アニーの心はイノックに向けられていた。

 

そしてイノックが海に出てから十年が過ぎた。フィリップはアニーに求婚した。彼女はとうとうフィリップの申し出を受け入れ、結婚する。そして年月は過ぎ、フィリップとアニーの間にも新たな生命を授かり、幼かったイノックとの子供も今ではすっかり

 

大きくなり、もはやイノックを父として、記憶すらしていなかった。イノックはどうしたのだろうか。乗船した船は難破し無人島に流れ着いた彼は一人で生きていた。ひたすらアニーを思い続け、その思いを糧に・・。しかし孤島のため、なかなか助けの船も来ない。何年も孤独の生活を送っていた。そうして、ようやく通りかかった船に助けられ、十数年ぶりに、生まれ故郷に帰っ

 

て来たのである。苦労に苦労を重ね、幾重の苦難を乗り越えて。ただただ家族を想う気持ちに支えられ・・。しかし故郷に戻ったイノックだったが、すでにアニーと子供たちはフィリップとともに新しい、そして幸せな家庭を築いている現実に直面するのであった。そしてイノックは・・・。

 

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